憑き夜の悪夢 ~奪い合うナナミの体~
すごい速さだ。それに一直線にこっちに向かっている。あたしはじっと身構えた。障子に影が迫る。憑霊の影が。すぐにその影は、障子を力づくで倒し、
「ミーツケタ……」
地面に這いつばり、憑霊があたしのいる部屋に姿を現した。
「そんなっ……」
あと少しなのに!! ……この腕の中に、絶対に本物の“右腕”はあるはずなのに。
あたしは唇を噛みしめ憑霊を睨んだ。憑霊はジリジリとあたしとの距離を詰める。
そのとき、
「あれっ…?」
ふとあたしは憑霊の姿に違和感を感じた。
憑霊の何かがさっきと変わっている気がする。鏡の中に来る前と何かが……
「……あっ!!」
ハッと気がついた。
そういえばここは、あらゆるものが左右逆転した鏡の中の世界だった。
だから憑霊の欠損した手足も左右が逆になっていたのだ。憑霊に感じた違和感の正体はそれだった。
待てよ。……じゃあ、憑霊の右腕って…?
あたしは部屋の中を見渡した。数えきれないほどある大量の右腕の中、さっき投げ捨ててしまった“左腕”を見つけた。
「これだ、憑霊の右腕…!!」