京都伏見・平安旅館 神様見習いのまかない飯
真人が戻ってくるにはもう少し時間がかかった。
またお腹が鳴りそうなのを舞子さんと世間話をして無理につないでいたら、やっと真人が新しいお膳を持って来た。
小さめの丼がふたつ。急須のようなものと薬味を入れた小皿もふたつずつあった。
「京都名物『ぶぶ漬け』、じゃなくて、鯛茶漬けだ。今夜の刺身をちょっと分けてもらった。舞子さんの分も持ってくる」
真人が持ってきた丼を覗くと、ごまだれに絡めた鯛の切り身が見えた。
こんもりとうずたかく盛り付けられている。ご飯はこの下にあるのだろう。
刻み海苔、あられ、三つ葉を適当に散らし、急須の中のものを回しかける。
鯛茶漬けというからお茶をかけたのかと思ったが、昆布と鰹のよい香りがして、出汁をかけたのだと分かった。
熱い出汁で鯛の身が少し白くなった。
舞子さんと私の前にそれらを準備して、真人がそう言った。
「さあ、食ってみろ」
私は箸を取って、丼を手に取った。少し迷ったけど盛り付けてある鯛の切り身を崩し、ご飯と一緒に口に運ぶ。
「あっ」
鯛の身の旨味とごまだれ、出汁の味わいがよく絡み合っている。
海苔の風味やあられの食感も楽しい。三つ葉の香りが爽やかだった。
今度は出汁だけを啜ってみる。
少しごまだれと混ざってしまっているが、それでも香りといい、味付けといい、食べたことがないくらいだった。
気づいたときにはさらさらと箸が止まらなくて。
丼の中身はきれいさっぱりお腹の中に入ってしまった。
「どうだ。うまかったか」
真人が笑顔で覗き込むようにしている。
「……おいしかった」何か少し悔しいけど。
「結構でした」と舞子さんがにっこり微笑んだ。
「こういうときなんていうんだっけ。ああ、『お粗末様でした』」
真人が楽しそうに食べ終わった食器を片付けている。
初めて真人の笑顔を見たような気がした。
正直、びっくりするほどおいしかった。
おいしいものを食べさせてくれる人はいい人、とは言わないけど、案外この人は根はいい奴なのかも知れない。
もう少し、この人に付き合ってあげてもいいかも。どうせ時間はあるんだし。
またお腹が鳴りそうなのを舞子さんと世間話をして無理につないでいたら、やっと真人が新しいお膳を持って来た。
小さめの丼がふたつ。急須のようなものと薬味を入れた小皿もふたつずつあった。
「京都名物『ぶぶ漬け』、じゃなくて、鯛茶漬けだ。今夜の刺身をちょっと分けてもらった。舞子さんの分も持ってくる」
真人が持ってきた丼を覗くと、ごまだれに絡めた鯛の切り身が見えた。
こんもりとうずたかく盛り付けられている。ご飯はこの下にあるのだろう。
刻み海苔、あられ、三つ葉を適当に散らし、急須の中のものを回しかける。
鯛茶漬けというからお茶をかけたのかと思ったが、昆布と鰹のよい香りがして、出汁をかけたのだと分かった。
熱い出汁で鯛の身が少し白くなった。
舞子さんと私の前にそれらを準備して、真人がそう言った。
「さあ、食ってみろ」
私は箸を取って、丼を手に取った。少し迷ったけど盛り付けてある鯛の切り身を崩し、ご飯と一緒に口に運ぶ。
「あっ」
鯛の身の旨味とごまだれ、出汁の味わいがよく絡み合っている。
海苔の風味やあられの食感も楽しい。三つ葉の香りが爽やかだった。
今度は出汁だけを啜ってみる。
少しごまだれと混ざってしまっているが、それでも香りといい、味付けといい、食べたことがないくらいだった。
気づいたときにはさらさらと箸が止まらなくて。
丼の中身はきれいさっぱりお腹の中に入ってしまった。
「どうだ。うまかったか」
真人が笑顔で覗き込むようにしている。
「……おいしかった」何か少し悔しいけど。
「結構でした」と舞子さんがにっこり微笑んだ。
「こういうときなんていうんだっけ。ああ、『お粗末様でした』」
真人が楽しそうに食べ終わった食器を片付けている。
初めて真人の笑顔を見たような気がした。
正直、びっくりするほどおいしかった。
おいしいものを食べさせてくれる人はいい人、とは言わないけど、案外この人は根はいい奴なのかも知れない。
もう少し、この人に付き合ってあげてもいいかも。どうせ時間はあるんだし。