京都伏見・平安旅館 神様見習いのまかない飯
「京都って、こんなだったっけ――?」
新幹線から降り立った私は、またしても途方に暮れていた。
駅が広い。
建物が近代的。
そして何より、人が多すぎる――。
イメージしていた京都はもっとこう、静かで、私みたいな人間の心を癒やしてくれるようなものだったのに。
でも、少なくとも京都駅にはそういう要素は見当たらない。
東京に帰ろうかとも思ったが、さすがに切符代がもったいない。それに少し落ち着いて考えれば、京都は日本屈指の観光地だ。駅に人が多いのは当たり前。やっぱり昼間からのビールがいけなかったのかもしれない。
とりあえずスマートフォンでオススメ名所を検索する。いくつか見比べて伏見稲荷大社に行ってみることにした。祀られている神様は宇迦之御魂大神、と言われてもさっぱりだったけど、千本鳥居と呼ばれるずらりと並んだ鳥居がいかにも美しかったし、実家の近所にもあったお稲荷さんの総元締めみたいなところと書かれていたからだ。
そう思って伏見稲荷大社へ歩こうとしたのだが、思ったより遠かった。
JR奈良線に乗って、最寄りの稲荷駅を目指す。京都駅なのにいきなり奈良線なのねと一人で勝手にウケていた。馴れない昼酒のせいかな。
稲荷駅へはそんなに時間はかからなかったけど、乗り慣れない電車というだけで疲労を増してしまった。
そして、やっぱりというか、予想外にというか、人が多かった。
それはそうだよね。スマートフォンの名所検索でトップクラスにあるのだから。
でも、それだったら、スマートフォンで見た写真にも人が一杯のものを使って欲しい。
そうすれば私みたいな静かにしていたい人は近づかないかもしれないのに。
気がつけば、私は人の流れに飲み込まれ、神社の方へ流されていく。
「うわー……」
千本鳥居を目の前にして私はすっかり気持ちが萎えてしまった。写真で見るのとは随分印象が違う。ひとつひとつの鳥居が心にずしりと重くて、私はそれらをくぐることになぜか怖じ気づいてしまったのだ。
「ダメだなあ、私」
私は観光客に道を譲った。みんな、記念撮影をしたり、楽しげに鳥居をくぐっていく。私は道から少し外れたところでその様子を見ていた。
人と一緒に歩こうと思って、何となく途中でついて行けなくなる。
そのくせ、流れに押し切られて漂うばかり。
思えばいつもこうだった。
リストラだって、もっと何かやり方があったんじゃないか。
彼氏とのことだって、もっと言いたいことを言うべきだったんだんじゃないか。
分かってはいる。
分かってはいるんだけど……。
「京都まで来て、何を辛気くさい顔してるんだ」
突然、背後から男の人の声がして私は飛び上がりそうになった。
新幹線から降り立った私は、またしても途方に暮れていた。
駅が広い。
建物が近代的。
そして何より、人が多すぎる――。
イメージしていた京都はもっとこう、静かで、私みたいな人間の心を癒やしてくれるようなものだったのに。
でも、少なくとも京都駅にはそういう要素は見当たらない。
東京に帰ろうかとも思ったが、さすがに切符代がもったいない。それに少し落ち着いて考えれば、京都は日本屈指の観光地だ。駅に人が多いのは当たり前。やっぱり昼間からのビールがいけなかったのかもしれない。
とりあえずスマートフォンでオススメ名所を検索する。いくつか見比べて伏見稲荷大社に行ってみることにした。祀られている神様は宇迦之御魂大神、と言われてもさっぱりだったけど、千本鳥居と呼ばれるずらりと並んだ鳥居がいかにも美しかったし、実家の近所にもあったお稲荷さんの総元締めみたいなところと書かれていたからだ。
そう思って伏見稲荷大社へ歩こうとしたのだが、思ったより遠かった。
JR奈良線に乗って、最寄りの稲荷駅を目指す。京都駅なのにいきなり奈良線なのねと一人で勝手にウケていた。馴れない昼酒のせいかな。
稲荷駅へはそんなに時間はかからなかったけど、乗り慣れない電車というだけで疲労を増してしまった。
そして、やっぱりというか、予想外にというか、人が多かった。
それはそうだよね。スマートフォンの名所検索でトップクラスにあるのだから。
でも、それだったら、スマートフォンで見た写真にも人が一杯のものを使って欲しい。
そうすれば私みたいな静かにしていたい人は近づかないかもしれないのに。
気がつけば、私は人の流れに飲み込まれ、神社の方へ流されていく。
「うわー……」
千本鳥居を目の前にして私はすっかり気持ちが萎えてしまった。写真で見るのとは随分印象が違う。ひとつひとつの鳥居が心にずしりと重くて、私はそれらをくぐることになぜか怖じ気づいてしまったのだ。
「ダメだなあ、私」
私は観光客に道を譲った。みんな、記念撮影をしたり、楽しげに鳥居をくぐっていく。私は道から少し外れたところでその様子を見ていた。
人と一緒に歩こうと思って、何となく途中でついて行けなくなる。
そのくせ、流れに押し切られて漂うばかり。
思えばいつもこうだった。
リストラだって、もっと何かやり方があったんじゃないか。
彼氏とのことだって、もっと言いたいことを言うべきだったんだんじゃないか。
分かってはいる。
分かってはいるんだけど……。
「京都まで来て、何を辛気くさい顔してるんだ」
突然、背後から男の人の声がして私は飛び上がりそうになった。