死神の恋
「ありがとう。勉強がんばる」
ダンスの練習に夢中になっていたときは、真美に勝つとか負けるとか一度も考えなかった。きっと今の私は、勉強への熱意が足りてないんだ。
スッと気持ちが軽くなった私がお礼を伝えると「ん……」という短い声が返ってきた。
友だちでもなんでもない私たちの勉強を見てくれたり、悩みを聞いてくれたり、彼はつかみどころのない不思議な人。向かいの席に座っている彼に興味が湧いてきた。
「ねえ、なに読んでるの?」
頭のいい彼のことだ。きっと私には理解不能な難しい本を読んでいるに違いない。
そう思って尋ねると、彼はテーブルの上に置いた本を手に取り、ブックカバーをパラリとはずした。
「えっ? 嘘でしょ?」
私が思わず声をあげてしまったのは、その本が青いタヌキのロボットが未来からやってくるというストーリーのコミックだったから。小学生の頃、夢中になって読んだ日々が懐かしい。
「これって奥が深いよな」
そう言ってペラペラとコミックをめくる彼は、やはりつかみどころのない不思議な人だと思った。