死神の恋
聞き覚えのある声がした方向へ視線を移す。すると体育館の入り口の脇にある水飲み場に、彼の姿があった。
「どうして?」
「……」
昼休みの時間でもなく裏庭でもない場所に現れた理由を尋ねる。しかし久しぶりに会った彼はなにも言わず、唇を不機嫌そうに歪めるだけ。
拗ねたような態度を見せる彼を不思議に思い、首を傾げること数秒。ようやく彼の口が開いた。
「……今の、彼氏?」
「ち、違うよっ!」
もしかして、私と北山くんのやり取りを見ていたの?
カッコいい北山くんを前にドキドキしていた私の顔は、赤く火照っていたはずだ。
まだほのかに感じる頬の熱さが恥ずかしくて、思わず下を向いた。でも彼の質問は終わらない。
「アンタ、彼氏いるの?」
「ど、どうしてそんなことばかり聞くの?」
さっきから『彼氏』『彼氏』とうるさい今日の彼は少し変だ。
うつむいていた顔を上げて、彼の質問の意図を考える。けれど私が答えを出す前に、彼の口から思いもよらない言葉が飛び出た。
「彼氏がいる女を誘うわけにはいかないだろ?」
「誘う?」
「そ」
彼は制服のポケットから一枚の紙切れを取り出すと、それを私に突きつけてきた。
「来週の土曜日、九時に旭ケ丘駅の上りホームに集合だから」