死神の恋
疎外感と居心地の悪さを抱いてしまった私は、ふたりから逃げるように体育館のステージの脇に置き忘れてしまったタオルと水筒を取りに行く。すると背後から真美の笑い声が聞こえてきた。
振り返った先に見えたのは、ケラケラと笑う真美の姿。女子に人気がある北山くんを前にしても、臆さない真美がうらやましい。
もし私が誰もが認める美人だったら、真美みたいに人見知りせずに北山くんに話しかけられるのに……。
もしあと身長が三センチ高かったら、真美みたいに自信を持ってダンスができるのに……。
真美みたいに……。真美みたいに……。
劣等感いっぱいの私の頭の中で“真美みたいに……”というフレーズが何度も繰り返される。
体調が悪いわけでもないのに、目の前の光景がグルリと渦を巻き始めたそのとき「未来! 行くよ!」という真美の声が耳に届いた。
「あ、うん!」
慌てて返事をすれば、目眩(めまい)のような症状はすぐに治まった。
「北山、練習がんばってね」
「おう、サンキュ。新倉もな」
「うん!」
お互いを励まし合う真美と北山くんの脇を、うつむきながら小走りで通り過ぎる。
本当は私だって、北山くんに“練習がんばって”と伝えたい。でも自分に自信が持てない私には、その勇気がない。
臆病者の自分なんて、消えてなくなればいいのに……。