死神の恋
黒いキャップを目深にかぶっているから、寝顔は見えない。けれどコクコクと船をこぐ様子は、明らかに居眠りをしているとわかった。
外の空気はひんやりとしているけれど、暖房が効いた電車内はポカポカとして寒さ知らず。だから眠くなるのは仕方ない。
肩に感じる彼の温もりと重みが恥ずかしくて、頬が熱を帯び始める。
寒さ対策としてダウンコートを着てきたことを、すぐに後悔した。
ラッキーランドの最寄り駅にあと少しで到着するという頃、私にもたれかかっていた彼が体を起こした。
「俺、寝てた?」
「……そうみたいね」
掠れた声で尋ねてきた彼に冷たく答えたのは、緊張感のない彼にイラッとしたから。
ラッキーランドに着いたらどのアトラクションに乗って、なにを食べようかなど、彼と盛り上がることを期待していたわけじゃない。でも電車に乗るとすぐに居眠りをし、一時間ほど私を放っておいた彼に笑顔を振りまくことはできなかった。
駅に到着するアナウンスが車内に流れる。座席から立ち上がれば、私を追うように彼が後をついてきた。
「あのさ」
手すりに掴まりドアの前に立つ私に、彼が短い言葉をかけてくる。
彼に対する苛立ちは治まってはいないけれど、無視するのは大人げない。