死神の恋
「ねえ、どうして私の名前を知ってるの?」
私は彼に自分の名前を告げたことはないし、私も彼の名前を知らない。
モッズコートのポケットに手を入れて足を進める彼に、疑問に思っていたことを尋ねた。
「いつも一緒にいる彼女がそう呼んでいたし、教科書の裏にも葉山未来って書いてあった」
「あ、そうか」
彼が言う『いつも一緒にいる彼女』とは真美のことだ。
意外に観察力がある彼に驚いたものの『教科書』と言うワードを聞いた瞬間、定期考査の結果を報告していないことに気づいた。
先週、定期考査の結果がすべて出揃った。どの教科も前回よりいい成果が出たし、彼に教えてもらった数学は平均点以上の点数を取ることができた。
そしてなにより、勉強に対する自信がついたことがうれしい。
「テストの結果だけど、どの教科も点数が上がったの。ありがとう」
「どういたしまして」
彼は私の報告に対して、いつもと同じように淡々とした言葉を返すだけ。派手なリアクションもなく、私を褒めることもしないマイペースな彼がおもしろい。
クスクスと笑いながら隣にいる彼の横顔を見上げると、その口もとが緩んでいることに気がついた。
長めの前髪が邪魔をして彼の瞳は見えない。けれど彼が笑っているのはたしかだ。
少し厚めの唇の端を上げて笑みを浮かべる彼の隣は、意外にも心地いい。
心穏やかにラッキーランドに続くプロムナードを進んでいると、ピュッと吹きつけた風に混じって彼の低い声が耳に届いた。