死神の恋

「じいちゃんはすごく驚いてたよ。そしてこう言ったんだ。そうか、幸希にも見えるのか、って……」

“見える”ことに関しては、前に彼から聞いた。でも“それ”についてはなにもわからない。

「ねえ、聞いてもいい?」

「もちろん」

「“それ”ってなに?」

彼が繰り返す『それ』を尋ねた。

「“それ”っていうのは、胸の辺りに取り憑く黒い塊のこと」

「黒い、塊?」

彼の説明を聞いても、やはり“それ”がよくわからない。私が首を傾げると、彼がクスッと笑った。

「口で説明するのは難しいけど、モヤモヤっとした黒い塊なんだ。じいちゃんはそれを、命を喰らう魔物だと言った。その魔物が現れた人には近いうちに死が訪れること、魔物が誰にでも見えるわけじゃないことを教えてくれた」

彼が言う命を喰らう魔物は、もちろん私には見えない。けれど、その正体はよくわかった。

私が「そうなんだ」と納得すると、彼が微笑みかけてくれた。でもその穏やかな表情も、すぐに曇ってしまう。

「その二ヶ月後、じいちゃんは持病の心臓病が悪化して死んだ」

「……」

おじいちゃんは彼の一番の理解者。だいぶ前の出来事とはいえ、彼にかける言葉が見つからなかった。

「じいちゃんが死んでからしばらくして気づいた。命を喰らう魔物に目を凝らすと、人の死が見えることに……」

彼の声が徐々に小さくなっていった。

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