死神の恋
幸希が照れたように、マッシュヘアを手で掻いた。
二重の丸い瞳があらわになった新しい髪型は、幸希によく似合っている。けれど私が気になったのは髪の毛を切った理由だ。
「でも、どうして急に切る気になったの?」
今まで交わしてきた会話の中で、幸希の口から髪型を変える話題は一回も出なかった。
「前髪を伸ばしていたのは、できるだけ魔物を見たくなかったからなんだけど……」
「けど?」
言葉に詰まった幸希に先を促せば、彼の口から思いがけない言葉が飛び出した。
「髪の毛を切れば、かわいい未来の姿がよく見えるだろ?」
幸希はそう言うと、ポケットに手を入れてうつむいてしまった。
不意の褒め言葉が恥ずかしくて、頬が熱く熱を帯び始めたのを実感した。
髪の毛を切った幸希は、今までどこかもっさりとした印象があった幸希とはまるで別人。とくに長めの前髪で隠れていた瞳があらわになったその容貌は、思わず目が離せなくなるほど整っているから落ち着かなかった。
「未来、電車来た」
「あ、うん」
隠れイケメンだった幸希と、これといった特徴のない平凡な私は不釣り合い……。
急に自分に自信が持てなくなり思わずうつむくと、幸希に手を握られた。
「どうしたの?」
中腰になって私の顔を心配げに覗き込む、幸希の手の温もりも声も、そして優しいまなざしも、以前となにも変わっていない。
それなのにカッコいい幸希を前に戸惑い、自分を卑下(ひげ)するなんて最低だ。
「ううん、なんでもない。イルミ楽しみだね」
背筋を伸ばすと、幸希の顔を見上げる。
オリーブ色のモッズコートに黒のパンツスタイルの幸希に対して、ついさっきまでダンスの練習をしていた私の格好は制服に紺色のPコート姿。
本当だったらオシャレしてクリスマスデートを楽しみたかったけれど、もう服装のことは気にしない。
私は幸希と一緒にクリスマスイブを過ごせるだけで、十分幸せなのだから……。