死神の恋
「今、部屋を暖めるから」
私がプレゼントしたマフラーをはずしてモッズコートを脱いだ幸希が、エアコンのスイッチをピッと押した。
ワンルームマンションの幸希の部屋にあるのはベッドと、フローリングの上に無造作に積み上げられた教科書とコミックだけ。
テレビもテーブルもない殺風景な部屋は、エアコンの暖房が効いてきても寒くて体がブルッと震えた。
「未来、寒い?」
「うん、少し……」
私が首を縦に振ると、フローリングに腰を下ろした幸希が「おいで」と言って両手を広げた。
どことなく余裕がある幸希と正反対なのは、この私。体が震えたのは寒さのせいではなくて、緊張しているせいだと今になって気づいた。けれど私を気遣ってくれる幸希を邪険にはできない。
「う、うん」と答えると、両手を広げる幸希の胸にぎこちなく体を寄せた。
東京駅から乗った電車の中で聞いたのは、高校に入学すると同時に親もとを離れてひとり暮らしを始めたということと、家賃と生活費は親が出してくれているということ。そしてバイトをしているのは、おこづかいを稼ぐためだということも幸希から聞いた。
「ねえ、幸希は自炊するの?」
急にこんなことを聞いたのは、幸希と体が密着しているのが照れくさいから。うつむいたまま返事を待っていると、私の首に巻きつくマフラーを幸希がはずす。
「しない。コンビニで買ってきた物を食べたり、適当に外食するだけ」
「そうなんだ。じゃあ、洗濯はどうしているの?」
幸希は私の手をキュッと握ると、指の間に自分の長い指を絡ませ始めた。
「週一でコインランドリーに行く」
「そ、そっか」