死神の恋
横断歩道を進む私の視界に映り込んだのは、片側二車線の道路を走る一台のトラック。車道側の信号は赤にもかかわらず、そのトラックのスピードは一向に落ちる気配がない。
な、に……?
目の前で起きていることを理解できなかったのは、ほんの一瞬。このままなにもしなければ、トラックに轢かれてしまうことを瞬時に悟った。
けれど身の危険を感じたはずなのに、恐怖で足がすくんでその場から一歩も動くことができない。
私、このまま死ぬの? 幸希が見たのは、トラックに轢かれて命を落とす私の姿だったの?
轟音を響かせて私に迫ってくるトラックを見て、死を覚悟したそのとき……。
「未来っ!」
世界で一番好きな人の声が耳に届いた。
昨日、私は自分の命が尽きるまで幸希の隣にいると誓った。でもそのときが、こんなにすぐに訪れるなんて思ってもみなかった。
ごめんね、幸希。大好きだよ……。
涙で揺らめく視界の先にいる幸希を思った瞬間、耐えがたい衝撃とともに体が宙を舞った。
地面に思い切り叩きつけられた体が悲鳴をあげる。ありとあらゆる箇所が熱く痛み、しびれて動かない。
ジワジワといたぶられて死ぬのなら、いっそひと思いに死にたい……。
そう思ってしまうほどの痛みにもだえ苦しんでいると、私の名前を呼ぶ弱々しい声に気づいた。
よく動かないまぶたに力を込めて目を開ける。その先に見えたのは、私の体を包み込むように横たわる幸希の姿だった。
短く切ったばかりの髪の毛も、丸い二重の瞳も、陶器のような白い肌も、今は黒々とした血に染まっている。
どうして? どうして幸希が? だって死ぬのは私で、幸希じゃない……。
痛む頭の中で、その思いだけがグルグルと回り続けた。
そんな私の前で、幸希の口が微かに動く。
「未来……嘘ついてごめん」と……。