死神の恋
「あのさ、安眠妨害しないでくれる?」
きっと彼は太陽の日差しを遮ってくれるサツキの植え込みの裏で、居眠りをしていたのだろう。人の気配がなくて静かな裏庭は、絶好のお昼寝ポイントだ。
開口一番、文句を言ってきた彼に腹立たしさを感じたものの、気持ちよく眠っているところを邪魔されたら誰だって不機嫌になるだろうと思い直す。
これ以上、彼と関わってもいいことはない。ここは素直に謝って、この場から一刻も早く立ち去った方がいい。そう思ったのに……。
「この裏庭はあなた専用の場所じゃないでしょ?」
足を一歩踏み出し、彼との距離を縮めた真美が反論する。
「ちょっと、真美!」
内気な性格の私とは違い、真美は言いたいことはハッキリと口にするタイプ。真美の言うことは間違ってはいないけれど、事を荒立てる必要はない。
特訓ならほかの場所を探せばいいし、そもそも貴重な昼休みを基礎練習に割くのはもったいない。
どさくさに紛れて特訓そのものをうやむやにしてしまおうと考えを巡らせながら真美の腕を引っ張り、この場から離れようと後ずさりした、その瞬間……。
「オマエ……」
かすれた声を発した彼の手が、私に向かって伸びてきた。
些細なことでもすぐに怖がってしまうのが、私の癖。不意の出来事に驚き「キャッ!」と声をあげると、彼から逃れるために上体を逸らす。しかし私のわずかな抵抗も虚しく、呆気なく彼の手に腕を掴まれてしまった。