死神の恋
それなのに、どうして?
今日初めて会った彼が私を見て動揺していたことを不思議に思っていると、五時間目が始まることを知らせる予鈴が鳴り響いた。
「あー、もう! アンタのせいでダンスの練習ができなかったじゃない!」
真美は苛立ちを隠さずに、彼に向かって嫌味を言う。
ついさきほど出会ったばかりの彼が、どのような性格なのか私たちは知らない。
もし彼が、怒りっぽくてすぐに手が出る人だったら?
これ以上、彼と関わらない方がいい。
そう判断した私は、真美の腕を慌てて掴んだ。
「真美、行こう」
「あ、うん」
真美が明日もこの裏庭に来ようと言っても絶対に断ろう。そうすれば、もう彼と会うことはないはずだ。
ひとりでそう納得して真美の腕を引っ張ると、校舎に向かって足を進めた。すると背後から、私を呼び止める彼の声が聞こえてくる。
「おい、そこのちっちゃい方!」
私は彼の名前を知らないし、彼も私の名前を知らない。だからといって私のことを『ちっちゃい方』と呼ぶとは失礼だ。
ダンスの基礎練習を邪魔されたことはどうでもいいけれど、彼になにかと振り回されてしまったことが悔しい。
これ以上、彼とは関わらない方がいいと決めたのは自分なのに、最後にひと言だけ文句を言ってスッキリしたいという感情が込み上げてきてしまった。