死神の恋
「私の後をつけてきたの?」
心臓がドクドクと音を立てる中、勇気を振り絞って声をあげた。けれど彼は無言のまま。
昨日は隣に真美がいたから、ひと言文句を言ってやろうと強気になれた。でも、なにを考えているかわからない彼と一対一で向き合った今は恐怖しか感じない。
喉はカラカラに渇き、足がガクガクと震え出す。こんな状態じゃ、逃げ出すこともできない。
私ひとりで決着をつけようとしたことが間違いだったんだ……。
自分の無力さを痛感していると、少し厚い彼の唇が上下に動いた。
「あのバアさん、死ぬぜ。そしてオマエもな」
彼が言う『あのバアさん』とは、ついさっきまで一緒にいた佐伯のおばあちゃんのこと?
私の『後をつけてきたの?』という質問には答えずに、自分の言いたいことだけ話す彼を信じられない思いで見つめた。
昼寝を邪魔されたことを執拗に恨み、私を脅しただけでは物足りず、人の後をつけて佐伯のおばあちゃんのことまで悪く言うなんて、絶対に許せない。
怒りがフツフツと湧き上がり、彼に抱いていた恐怖心がどこかへ吹き飛ぶ。
「嘘をついて人を脅すのって最低っ!」
目の前にいる彼が憎い。
その一心を胸に荒らげた声は思った以上に辺りに響き渡り、ふと幼い頃の記憶がよみがえった。