死神の恋
「おい、そこのちっちゃいの」
「……っ!」
独特の呼び名で私に声をかけるのは、世界でただひとりしかいない。恐怖に震えてゆっくりとまぶたを開ければ、そこにはやはり彼の姿があった。
午後七時半を過ぎたというのに、彼は旭ケ丘高校の制服であるブルーのワイシャツにグレーのスラックス姿のまま。家には帰らずに、どんぐり公園で私を待ち伏せしていたに違いない。
幽霊よりも生身の人間を怖いと思ったのは、今日が初めて。体の震えが止まらない中、彼の顔を見上げれば、厚めの唇の端がわずかに上がった。
「俺の言ったこと、本当だったろ?」
どことなく自信に満ちあふれた彼の口調が癪(しゃく)に障る。佐伯のおばあちゃんが亡くなることを言いあて、お通夜の日に再び姿を現した彼が憎い。
「死神!」
恐怖心よりも嫌悪感が増していき、彼に向かって声を荒らげた。けれど彼は、鼻先で私を笑う。
「別に俺は死神じゃねえよ。でも、そうだな……。オマエにとって俺は死神かもな」
彼は私が口にした『死神』という言葉を一度は否定しておきながら、すぐさま納得した様子を見せた。
ついさっき、佐伯のおばあちゃんのお通夜が終わったばかり。メンタルが弱っている今、次は私の番だと言われたら平常心ではいられない。
一刻も早く、彼から逃れたい。
足をゆっくり後退させると、彼から距離を取る。すると真っ暗な空から雨粒が落ちてきた。