死神の恋
今日の降水確率は九十パーセント。私も真美も、当然長傘を持っている。しかし彼の両手は制服のスラックスのポケットに入れられたまま。長傘は持っていないし、背負っているリュックから折り畳み傘を取り出す気配すらない。
でも彼が傘を持っているかどうかなんて、私には関係ない。むしろ傘がなくて雨に濡れてしまえばいいんだと、意地悪なことを思ってしまう。
人の不幸を願うなんて、嫌な性格……。
自己嫌悪に陥りつつ、手にしていた長傘をバンと開いた。
「で? あのバアさんの最期にきちんと向き合えたのかよ」
「それは……」
彼に返す言葉に詰まってしまったのは、佐伯のおばあちゃんの最期にきちんと向き合えたとは思えないから。
お通夜でおばあちゃんに『今までありがとう』と伝えても、あたり前だけど返事はなかった。こんなことになるなら、おばあちゃんが生きていいるうちに感謝の気持ちを伝えればよかったと後悔しているのだ。
下唇をキュッと噛み、込み上げてくる悔しさを我慢する。けれど佐伯のおばあちゃんが亡くなった悲しみは簡単には癒えない。
涙が枯れるまで泣いたはずなのに、再び涙腺が緩み出した。
「うっ……」
雨粒がポツリポツリと傘にあたる音と、私のすすり泣く声だけが夜道に響く。そんな中、しびれを切らしたように真美が声をあげた。
「ちょっとアンタ、未来になにをしたのよ!」
今まで成り行きを静かに見守っていた真美が彼に詰め寄る。