死神の恋
「真美!」
今にも彼の胸ぐらに掴みかかりそうな勢いを見せる真美を止めるために、さしていた傘を跳ねのけると、ふたりの間に慌てて割入った。しかし興奮気味な真美とは対照的に、彼はいたって冷静だ。
「……そこのちっちゃいのに直接聞けば?」
彼は顎先で私を指し示す。そしてウエーブのかかった長めの前髪にまとわりついている雨粒を、わずらわしそうに払うと私たちに背中を向けた。
何故、佐伯のおばあちゃんが亡くなることがわかったの? 本当に私も死ぬの?
もう彼とは関わらないと決めた。だから彼のことなど放っておけばいい。でも真実が知りたいという欲求を抑えることができず、さつき台駅の方向に足を進め始めた彼の後を急いで追った。
「ちょっと待って!」
地面に転がったままの傘を拾い、彼を呼び止める。
「これ、使って」
「……」
「返さなくていいから」
「……」
自分の傘を突きつけたものの、彼は黙り込んだままポケットから手を出そうとはしなかった。
私と彼の間に沈黙が流れる。
真実が知りたくて彼を追い駆けたはずなのに、いざとなると真実を知るのが怖くなってしまう。
揺れ動く感情に戸惑いうつむくと、私の視界に映り込んでいた彼のローファーがスッと消えた。慌てて顔を上げた先に見えたのは、さつき台駅の方角に再び歩き始めた彼の後ろ姿。