死神の恋

ついさっきまで楽しく過していたのが嘘のよう。テンションが一気に下がり、口からため息がこぼれた。そんな中、愛梨がポツリとつぶやく。

「未来にはダンス部、辞めてほしくないな」

「……?」

一瞬キョトンとしてしまったのは、まさか愛梨に『辞めてほしくない』言われるとは思わなかったから。何故、愛梨がそう思うのか理由が知りたい。

「……どうして?」と尋ねると、フォークをお皿に置いて身をのり出した。

「文化祭のステージを菜々美と観たけど、未来、すごく楽しそうだったし」

「夢中になれるものがある未来が、うらやましいって思っていたんだ」

愛梨と菜々美が口々にそう言う。

彼氏のあっくんとラブラブな愛梨と、すでに進路を決めている菜々美。ふたりをうらやましく思っていたのは、私の方。

まさかふたりの口から私をうらやむような言葉が出てくるなんて……。

愛梨と菜々美の意外な告白に驚き、気が動転してしまってなにも言うことができない。

「焦って結論を出さなくてもいいんじゃない?」

「そうそう。じっくり考えた方がいいよ」

愛梨と菜々美の顔に、柔らかな笑みが浮かぶ。

「うん、そうする。ありがとう」

愛梨と菜々美は私になにが遭ったのか知らない。それなのに悩んでいることに気づき、さりげなく私を元気づけてくれるふたりの優しさがうれしかった。

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