死神の恋
選抜メンバーを中心とした練習が終わった午後五時。ステージ脇に置いたタオルと水筒を持って体育館を後にしようしたとき、それは起きた。
「未来。ちょっといい?」
真美が私の前に立ちはだかる。眉根を寄せて、唇を真っ直ぐに結んだ真美の表情はなんだか怖い。
「……うん」とコクリとうなずくと、体育館を出て行く真美の後を追った。
真美は私にどんな話があるのだろう……。
不安を募らせながら、部室へと続く渡り廊下とは逆の方向に進んでいく真美の背中を見つめる。
真美とは一ケ月以上も口を利かなかった。でも真美のことが嫌いになったわけじゃない。今でも私は『偉そうに意見しないで』と真美に言ってしまったことを後悔している。
真美を傷つけてしまったことを謝ろう。真美に許さないと言われても、何度でも謝ろう……。
そう決意したとき、先を歩いていた真美の足が止まった。
体育館の角を曲がったここは、部室に向かうダンス部員の話し声も、グラウンドでまだ練習をしている野球部のかけ声も届かない静かな場所。
「ま、真美……あのね……」
私の震える声だけが響き渡る。
勇気を出して口を開いたものの、思うように言葉が続かない。真美に謝ることすらできない弱い自分が情けなくて、視線を落とすとうつむいた。