死神の恋

もちろんダンスは好き。けれど筋トレやストレッチのような地味な基礎練習は嫌い。私は文化祭のときのように、かわいい衣装を着て楽しく踊ることができたらそれで満足なのだ。

しかしそんな本音を漏らしたら、熱血ダンス部員である真美に軽蔑されてしまうかもしれない。幼なじみで親友でもある真美に嫌われるのは絶対に嫌。

「明日の昼休みから特訓開始ね」

「わかった。真美、ありがとう」

「ううん」

昼休みは母親が作ってくれたお弁当を食べながら、クラスメイトである愛梨と菜々美の三人で過ごすことが多い。
彼氏がいる愛梨の恋バナはダンス漬けの私にとって新鮮で、とても刺激的だ。

けれど明日からしばらくの間はそれもお預けかと思うと、少し寂しい気がした。

午前九時から始まった練習が終わり、お昼休憩を取るために体育館を後にする。昼食である母親が握ってくれたおにぎりを取りに部室に向かったそのとき、タオルと水筒を体育館に置き忘れてしまったことに気づいた。

「あ、タオルと水筒忘れた」

猛暑日が続いた八月に比べると朝晩は涼しくなり、日中もだいぶ過ごしやすくなった。けれど熱中症予防対策はまだまだ継続中。体を動かし続けている私たちには、こまめな水分補給が欠かせない。

「もう、しょうがないな。ほら、戻るよ」

「うん。ごめん」

面倒見がいいいお姉さんみたいな真美の後を追い駆けて体育館に戻る。すると、ある物音が聞こえてきた。

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