死神の恋

ステージ衣装から制服に着替えると、まだ出番を終えていない高校の演技を見るために観客席に向かう。

ほかの高校のダンスを見る機会など滅多にない。

自分が踊るときとは少し違う興奮を感じながら、各校のダンス部員とその保護者、そして関係者でごった返しているエントランスを進んだ。けれどあることに驚き、その足がすぐに止まる。

ダンスとは無関係の彼がどうしてここに?

私が驚いたのは、エントランスで名前も知らない彼の姿を見つけたから。黒のキャップにグレーのパーカー、ジーンズ姿の彼は壁にもたれかかり、体の前で両腕を組んでいる。

選考会に新人大会と、ダンス漬けの毎日を過ごしていた私は彼の存在をすっかり忘れていたし、彼も私の前に姿を現わさなかった。

それなのに、今頃どうして? 何故、新人大会の会場に?

わからないことが多すぎて固まっていると、うつむいていた彼が顔を上げた。キャプを目深にかぶっているせいで、彼の視線が私を捉えているのか遠くからでは把握できない。

この先どうしたらいいのかわからずに戸惑っていると、彼が私に向かって顎をクイッと動かすのが見えた。彼はエントランスを横切り、出入り口の方へ進んで行く。

どうやら彼の顎クイは、外に来いという合図らしい。

ほかの高校のダンスを見たいけれど、彼がプラザホールまで来た理由の方が気になる。

人ごみを掻き分け、外に出て行く彼の後を追った。

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