死神の恋
午前中に体育館を使用していたのはダンス部だけ。今はお昼休憩中だから、体育館には誰もいないはず。
ボールをドリブルする音と、シューズがキュキュッと鳴る音を不思議に思いながら体育館に入ったその瞬間、緩やかな放物線を描いたボールが、バスケットゴールに吸い込まれていった。
バスケットボールの経験は体育の授業のみ。大きくて重いボールをバスケットゴールめがけて投げてみても、シュートが決まったことは一度もない。
そんな球技オンチな私が反射的に「わっ、すごいっ!」と感嘆の声をあげると、シュートを放った人物がこちらを向いた。
「新倉と……葉山(はやま)、だっけ?」
誰もいないはずの体育館で華麗なシュートを決めたのは、男子バスケットボール部の部長を務めている北山くん。額の汗をリストバンドで拭って白い歯を見せて微笑む姿は、とても爽やかだ。
彼目あてでバスケットボール部の練習を見学に来る女子も多く、北山くんがゴールを決めるたびにギャラリーから黄色い歓声が沸く。そして練習が終わった彼の周りには、すぐさま取り巻きが集まる。切れ長の目と通った鼻筋。北山くんはイケメンなうえに、アイドル並の人気だ。
真美と北山くんは同じクラス。だから真美の名前がすぐに出るのはあたり前。でも微妙な間があったものの、一度も口を利いたことのない私の苗字を覚えてくれていたことは驚きだった。