死神の恋
返す言葉がすぐに見つからないのは、彼の口から出た『死』というワードがあまりにも唐突すぎたから。
メロンパンをくれた彼のさりげない優しさに触れて油断していた分、受けたダメージは大きい。
「昨日、今はダンスが楽しいとか言ってたけど、もう全国大会には出場できないんだろ? 次はなにを生きがいにするつもり?」
彼は混乱してなにも言い返せない私を見て、鼻先で笑った。
私が『次』悩んでいることを見抜き、あざ笑う彼が憎らしい。
「どうして私をいじめるの?」
怒りのままに、隣にいる彼を睨みつけた。しかし彼は顔色ひとつ変えない。
「言っただろ? 世の中は理不尽なことだらけだって」
「……」
彼になにを言っても『理不尽なこと』と言って流されてしまうだけだと悟った私は、静かに口をつぐんだ。
気持ちが沈み、ジワリと涙が込み上げて視界が揺れ始めた、そのとき……。
「次は勉強でもがんばってみれば?」
まさかのアドバイスが彼の口から飛び出した。
彼は死に怯える私を見て楽しむだけでなく、突拍子もないこと言っておもしろがる。
そんな悪趣味な彼になにを言っても無駄だと思ったけれど、感情を押し殺したままでいるのはやはり悔しい。