死神の恋
「ふ、ふざけないで!」
瞳の端に滲んだ涙を指先で拭うと、彼に向かって声を荒らげた。ところが彼は興奮する私のことなど気にも留めない。
「別にふざけてないし。勉強ってがんばった分だけ結果が出るから、やりがいあるぜ」
彼はそう言うと、体の前で両腕を組んだ。
私が苦手なのは数学。教科書を開くと眠くなるし、数式を見ただけで頭が痛くなってしまう。
そんな私とは対照的なのは彼。『やりがいあるぜ』と言うくらいなのだから、勉強に自信があるのだろう。
三週間後の十一月下旬には定期考査が始まる。その結果が出揃う十二月上旬には三者面談も待ち受けている。
ダンスに現(うつつ)を抜かしてばかりいた今の状態だと、どの教科も悲惨な結果になってしまいそうだ。
マジでヤバい……。
「……数学、得意?」と、さっきの勢いが嘘のような小さい声で尋ねれば「まあ、それなりには」という答えが返ってきた。
高校三年生の彼にとって、去年習った高校二年生の問題など簡単なのかもしれない。けれど背筋を伸ばして自慢げに胸を張ってみせる、余裕綽々(しゃくしゃく)な彼の態度は気に入らない。