死神の恋
翌日の土曜日。真美と一緒に旭ケ丘駅の前にあるファミレスに入る。彼は『駅前のファミレスで十時に集合』としか言わなかったけど、旭ケ丘駅前にはファミレスは一軒しかないため、ここで間違いないはずだ。
「いらっしゃいませ。何名様ですか」
ファミレスの入り口に彼の姿はなかった。
「待ち合わせをしてまして……」
店員さんにそう告げると、店内をグルリと見回す。すると窓際の奥の席に座っている彼を見つけた。
左手で本を持ち、右手でコーヒーカップを口に運んでいる彼のもとに足を進める。
「遅くなってごめんなさい」
今の時刻は午前十時五分。待ち合わせの時間に遅れてしまったことを謝れば、本に視線を落としていた彼が顔を上げた。
「いや、別に待ってないから」
彼は無愛想にそう言うと、コーヒーカップをソーサーに置く。
落ち着いたその仕草と、薄手の黒いVネックセーター姿。普段とは少し違う彼は、裏庭のベンチで焼きそばパンを頬張っているときよりも大人っぽく見えた。
これは恋じゃない。見慣れない彼の様子に戸惑っただけだ……。
自分にそう言い聞かせたのは、不覚にも一瞬胸がトクンと高鳴ったことを自覚したから。
死に怯える私を見て楽しんでいた彼を、好きになるわけがない。絶対に。
「未来」
真美に背中を軽くつつかれて我に返る。
「あ、今日は真美も一緒にいい?」