死神の恋
ナンバーもアドレスも知らない彼に、前もって真美も一緒だということを知らせることができなかったため、面と向かって彼に尋ねた。
「どうぞ」
短く返ってきた答えを聞き、真美とともに彼の向かいの席に腰を下ろした。
「今日はよろしくお願いします」
「どうも」
真美がよそよそしい挨拶をしたのは、彼を警戒しているから。そんな真美の心中を知ってか知らずか、たった三文字の短い挨拶を返した彼は相変わらずマイペースだ。
かみ合わないふたりがおかしくて、思わず小さく笑ってしまった。
「なに笑ってるの?」
「ううん。なんでもない」
「変な未来」
不思議がる真美の隣で首を左右に振るとバッグから数学の教科書とノートを取り出し、テーブルの上に広げた。
彼の説明はわかりやすくて、自力で解ける問題も増えた。でも真美は、私より数ページ先の問題にチャレンジしている。
「ここはこの数式にあてはめて……」
「ああ、なるほど」
丁寧な彼の説明をすぐに理解して、問題をスラスラと解いていく真美はやはり頭がいい。
今日、私がこの場にいなかったら彼の負担は軽かっただろうし、真美の勉強も今よりずっとはかどっていたかもしれない。
私、ふたりの足を引っ張っている……。
どうしようもない不安に襲われ、勉強が手につかなくなってしまった。けれど熱心に勉強しているふたりの前でボンヤリするわけにはいかないし、帰るわけにもいかない。
気を取り直すと、再び問題に取りかかった。