御曹司とおためし新婚生活


「向日」

「は、はい」


部長の厳しい声に呼ばれ、私はピシッと背筋を伸ばす。


「忠告したはずだ。こいつのペースに巻き込まれるな」

「ご、ごめんなさい」


そうだ。

再三注意され、部長の怒りまで買って。

一層気を付けると誓ったのに、半月でまたしても鳳さんに隙を見せてしまった。

本当に居たたまれない。


「亜湖ちゃんは警戒してたよ。でも、俺が上手で、亜湖ちゃんが素直で可愛すぎただけ」

「お前は黙ってろ」

「黙ったら亜湖ちゃんを俺にくれるなら喜んで」


私を庇いつつも、やはり自分のペースに持ち込もうとする鳳さんを、東雲部長は静かに目を細めて睨む。

そして。


「……二度と、彼女に触れるなよ」


秀麗な顔を不機嫌そうな歪め、空気が凍るような声色で言い放った。

緊張か、高揚か。

私の心臓が速度を上げた直後、東雲部長は鳳さんから私に視線を戻す。


「向日、通話を」

「は、はいっ、すぐに」


きっと谷川さんも待っている。

リモコンで番号を入力すると、たのタイミングで奥田マネージャーも到着した。


「あら、部長。早いですね」

「少し確認したいことがあったからな」

「何か問題が?」

「ああ。でも今片付いた」


そんなやり取りが聞こえる中、少し離れた場所にいる鳳さんがぽつり零した声。


「ふーん……そんなにか。いいね、やっぱり面白い」


先日も見たいびつな笑みを浮かべる鳳さんに、私は不穏さを感じずにはいられなかった。





< 100 / 127 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop