御曹司とおためし新婚生活
「向日」
「は、はい」
部長の厳しい声に呼ばれ、私はピシッと背筋を伸ばす。
「忠告したはずだ。こいつのペースに巻き込まれるな」
「ご、ごめんなさい」
そうだ。
再三注意され、部長の怒りまで買って。
一層気を付けると誓ったのに、半月でまたしても鳳さんに隙を見せてしまった。
本当に居たたまれない。
「亜湖ちゃんは警戒してたよ。でも、俺が上手で、亜湖ちゃんが素直で可愛すぎただけ」
「お前は黙ってろ」
「黙ったら亜湖ちゃんを俺にくれるなら喜んで」
私を庇いつつも、やはり自分のペースに持ち込もうとする鳳さんを、東雲部長は静かに目を細めて睨む。
そして。
「……二度と、彼女に触れるなよ」
秀麗な顔を不機嫌そうな歪め、空気が凍るような声色で言い放った。
緊張か、高揚か。
私の心臓が速度を上げた直後、東雲部長は鳳さんから私に視線を戻す。
「向日、通話を」
「は、はいっ、すぐに」
きっと谷川さんも待っている。
リモコンで番号を入力すると、たのタイミングで奥田マネージャーも到着した。
「あら、部長。早いですね」
「少し確認したいことがあったからな」
「何か問題が?」
「ああ。でも今片付いた」
そんなやり取りが聞こえる中、少し離れた場所にいる鳳さんがぽつり零した声。
「ふーん……そんなにか。いいね、やっぱり面白い」
先日も見たいびつな笑みを浮かべる鳳さんに、私は不穏さを感じずにはいられなかった。