御曹司とおためし新婚生活
「お前はさっき、俺の笑った顔が好きだと言ったが……こんなにも心が動くのは、お前だからだ」
彼の特別になれているのだと伝えられ、喜びが胸の内に広がっていく。
心臓は早鐘を打ち続けているし、唇の熱に翻弄されて何だかクラクラするけれど、どんなに状態でもこれだけははっきりと見えていて。
私はそっと唇を離して、それを伝える。
「私も……東雲部長だから、心が動くんですよ」
日を追うごとに、触れるごとに募る想い。
恋愛なんてこりごりだと思ったはずのあの日が嘘のようだ。
「好きだ……亜湖」
熱を帯びた声色で明確に想いを告げられて。
初めて名前を呼ばれれば、次の瞬間には深くなる口づけ。
情熱的で濃密なキスに、もっと……と、彼に身を寄せようと身動いだ時だ。
ぎゅるるるるる。
こんなタイミングで、もはやお約束となりつつある私の腹の虫が盛大に鳴いた。
もちろん、彼の耳にもバッチリ聞こえていたようで。
「ふっ」
合わせた唇から、東雲部長の笑いが漏れる。
「なんかもう……すみません……」
「いいじゃないか。腹の虫まで正直で」
軽く唇を啄むと、体勢を戻した部長は再びグラスを手にした。
「時間はたっぷりある。今は腹を満たして、それからまたお前をもらえばいい」
月明かりの下で色っぽく微笑む東雲部長。
もらう、なんて言われたら、お腹いっぱいに食べれるわけもなく。
いつもより小食な私を不思議がる彼に、曖昧な、けれど幸福に満ちた笑みを浮かべる。
頭上では、本日の主役である満月が、私たちの恋の成就を祝福するように優しく照らしていた。