御曹司とおためし新婚生活


「な、なんですか?」

「質問あるんだけど」


と、そこまで口にしたかと思うと、私の耳にそっと手を当てて。


「今彼氏はいる?」


声を潜めて聞いてきた。


「は、はい?」


いないけど、いてもいなくてもなんだというのか。

そういえば前の彼氏と別れてからどれくらいだっけ……じゃなくて!

そうだ、ゆずちゃんはいずこ!?

急いで視線を走らせると、ゆずちゃんはスマホを耳にあてて誰かと話している。

なんだかイライラしている感じだし、仕事か男か。

ああ、東雲部長もレジ前に立ってお会計に突入してるし。

ちょっと待って落ち着こう。

まずはそう、お会計だ。


「あの、鳳さん。今はお会計を」

「あー、それは東雲がしてくれるから任せればいいよ。東雲に払わせるのが嫌だったら、俺があとで亜湖ちゃんのも払っておくから」

「いえ、それも悪いので」

「それよりさ」


鳳さんは私の話を聞く気がないようで、声をかぶせながら私の腕を引くと、支払いをしている東雲部長を追い越し扉を開けた。

まだ少し肌寒い夜の外気が体を撫でて迎えると、チリリンと店の扉が鈴の音を鳴らして閉まる。

< 12 / 127 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop