御曹司とおためし新婚生活
「な、なんですか?」
「質問あるんだけど」
と、そこまで口にしたかと思うと、私の耳にそっと手を当てて。
「今彼氏はいる?」
声を潜めて聞いてきた。
「は、はい?」
いないけど、いてもいなくてもなんだというのか。
そういえば前の彼氏と別れてからどれくらいだっけ……じゃなくて!
そうだ、ゆずちゃんはいずこ!?
急いで視線を走らせると、ゆずちゃんはスマホを耳にあてて誰かと話している。
なんだかイライラしている感じだし、仕事か男か。
ああ、東雲部長もレジ前に立ってお会計に突入してるし。
ちょっと待って落ち着こう。
まずはそう、お会計だ。
「あの、鳳さん。今はお会計を」
「あー、それは東雲がしてくれるから任せればいいよ。東雲に払わせるのが嫌だったら、俺があとで亜湖ちゃんのも払っておくから」
「いえ、それも悪いので」
「それよりさ」
鳳さんは私の話を聞く気がないようで、声をかぶせながら私の腕を引くと、支払いをしている東雲部長を追い越し扉を開けた。
まだ少し肌寒い夜の外気が体を撫でて迎えると、チリリンと店の扉が鈴の音を鳴らして閉まる。