御曹司とおためし新婚生活


「彼氏、いてもいいんだけど、良かったら俺と付き合ってみない?」

「……は?」


彼氏がいてもいいから、俺と付き合ってみないかってなに。

日本語に聞こえるけど、ごめんなさい。

理解できない。


「びっくりしてる顔も可愛いね」


鳳さんが覗き込むようにしてきて、私はその分体を後ろに引く。


「い、いやいや、ちょっと冗談が過ぎますって」

「冗談? ハハ、本気だって。俺、君を楽しませてあげられると思うけど」


正直に言えば、結構ですお断りです、軽い人は無理ですと言って帰りたいところだ。

でも、鳳さんとはきっと、今月から動き始めた春夏の発表会に向けてお世話になる確率は高い。

だから、なるべく穏便にと「またまた」と笑顔でかわしたのだけど。


「週末、試しにデートでもどう?」


結構しつこくて、張り付けている笑みもいよいよ引きつりそうになった。

その時。


「俺の部下を困らせるなよ、アホウドリ」


涼しい顔で扉を閉める東雲部長がなにやらおかしなあだ名で鳳さんを窘めてくれる。

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