御曹司とおためし新婚生活
「ようやく反応したかと思えば、また懐かしい呼び方をしたもんだな、東雲」
「懐かしい、あだ名?」
東雲部長に対して気さくだなとは思っていたけど、会社を縁に親しくなったのかと勝手に思っていた私は首を傾げた。
「俺と東雲は、高校の同級生なんだよ」
「そうなんですね!」
それなら親しいのも頷ける。
「だから、こいつが昔から変わらずアホなのも知っている。いくぞ、向日」
東雲部長は鳳さんが掴んでいた手を離させると、代わりに自分の手で私の手首を掴んで夜道を歩き出した。
「あ、あの、ゆずちゃんがまだ」
「釜田なら鳳と二人にさせてやればいい」
……ああ、なるほど。
でも一応あとで連絡は入れておこうと思いつつ、今は東雲部長に感謝しよう。
勝手に連れて行かれても大して気にしていないのか、鳳さんは私に「返事はまた今度聞かせてね」と手を振って笑っている。
それを横目で確認した部長は、小さな溜め息を落とした。
そうして、鳳さんの姿が見えなくなったところで、東雲部長は私の腕を解放してくれる。