御曹司とおためし新婚生活
「強引に引っ張って悪かった」
……あ、あ、謝ってる!
東雲部長が、謝っている!
個人的な印象では、東雲部長は人に謝ったりしない俺様主義なのかと思っていたのに。
私は大きな勘違いをしていたらしい。
「い、いえっ、助かりました! ありがとうございます」
駅へと向かう道すがら、ペコリとお辞儀をすると東雲部長に「万が一でもあいつに引っかかったら大変だぞ」と釘を刺される。
「でも、お仕事の腕は凄いって聞きました」
引っかかることはないだろうけれど、女関係は緩くとも、仕事は仕事だ。
尊敬すべきところは素直にそう感じたいし、今後変に身構えるのも良くない気がしてそう答える。
すると部長はまた溜め息を零して。
「鳳に入れ込んでる女たちに刺されないようにな」
そんな恐ろしいことを口にした。
「そ、それは嫌です。そんな面倒に巻き込まれたくないです」
というか、どれだけ面倒なタイプに好かれてるのあの人。
いや、鳳さんが面倒な女にしている可能性もあり得るかも。
そう、私は良く知っている。
恋愛は、時に相手の心を歪めてダメにしてしまうことがあることを。
一瞬、瞼の裏に元カレの姿がちらついて。
「本当……恋愛って面倒」
思わず零してしまった言葉。