御曹司とおためし新婚生活
「私と同じですね」
「交際相手がいないことか?」
「それもですけど、結婚に期待していないってところも」
「……そうか」
私の話には興味がないのか、お決まりの相槌が聞こえて。
だからさらっと明るい雰囲気で終わらせるつもりで口にした。
「前の恋愛で疲れてしまって、どうにも気持ちが動かなくて。結婚はいいぞーって思えるようなことがあればいいんですけどねー」
そう、それは何気なく。
深く考えもせずに。
「例えば、お試しで結婚生活が体験できるとか!」
ただ思い付きで声にしたものなのに。
「……なるほど、いいアイデアだな」
部長はひとつ頷き、神妙な顔で私を見つめた。
「試してみるか、結婚生活ってやつを」
「はい?」
「俺と結婚しろ、向日」
「はいいいっ!?」
月も星も出ていない、人もまばらな駅前で。
私と東雲部長の関係は、あり得ない急展開を迎えたのだった。