御曹司とおためし新婚生活
「それでは、新作イベント資料の二ページから」
ノートパソコンに表示されているパワーポイント資料を、奥田マネージャーの説明するタイミングに合わせて切り替えつつ、発表会までの具体的なスケジュールや予算、必要なスタッフ等についてを頭の中に叩き込んでいく。
新作となる口紅のコンセプトは「唇にプロポーズ」。
それほどに魅力のある唇になれるという意味がこめられていて、会議の結果、イベント会場は結婚式を意識した空間に装飾される予定となった。
プロポーズ。
結婚式。
ふたつのワードに、私の集中力が揺らぐ。
ちらりと東雲部長に目をやってみるも、彼は涼しい顔で長い足を組み、視線を資料に落としているのみ。
……やはり、あれは私の妄想かなにかだったに違いない。
そうだ。
そうだよね。
ハイスペックな東雲部長が、外見も中身も平均スペックなちんけな私にプロポーズなんてするわけがないのだ。
私ったら知らずに飲みすぎていたのかもしれないと、心の中で大笑いしたらなんだかスッキリして。
その後は見違えるほどに仕事に集中できた……のだけど。