御曹司とおためし新婚生活
新作発表会に向けての会議も終わり、一日の業務も滞りなくこなし、オフィスに終礼のチャイムが鳴ってすぐのこと。
「向日、話がある。少し飯に付き合え」
私は、東雲部長がたまに訪れているという高級ホテルのbarに連れてこられた。
ジャズの生演奏が流れるアジアリゾートをモチーフとしたエレガントな雰囲気の店内。
東雲部長と私はその奥にある個室に案内され、大きな窓の外に広がる東京の夜景に心奪われたのも束の間。
「ここにしようと思うが異存はないか」
弾力のあるソファーに腰を下ろすなり、昨夜のことが夢でも幻でもなく現実だったことを叩きつけられた。
無垢材で作られたシックなデザインのテーブル。
その上に広げられたのは、一軒の物件情報。
瓦屋根をかぶった純日本家屋はどう見ても豪邸で。
「す、素敵、ですね……」
ええ。本当にそれはもう夢みたいに素敵な家ですが。
「住所を見てもらえばわかると思うが、会社に通うにも苦にはならないはずだ」
ああ、本当だ。
駅近だし、電車も乗り換えなしの乗車時間は十五分。
通勤時間はドアtoドアで四十分なら、全然文句はない……じゃなくて!