御曹司とおためし新婚生活


新作発表会に向けての会議も終わり、一日の業務も滞りなくこなし、オフィスに終礼のチャイムが鳴ってすぐのこと。


「向日、話がある。少し飯に付き合え」


私は、東雲部長がたまに訪れているという高級ホテルのbarに連れてこられた。

ジャズの生演奏が流れるアジアリゾートをモチーフとしたエレガントな雰囲気の店内。

東雲部長と私はその奥にある個室に案内され、大きな窓の外に広がる東京の夜景に心奪われたのも束の間。


「ここにしようと思うが異存はないか」


弾力のあるソファーに腰を下ろすなり、昨夜のことが夢でも幻でもなく現実だったことを叩きつけられた。

無垢材で作られたシックなデザインのテーブル。

その上に広げられたのは、一軒の物件情報。

瓦屋根をかぶった純日本家屋はどう見ても豪邸で。


「す、素敵、ですね……」


ええ。本当にそれはもう夢みたいに素敵な家ですが。


「住所を見てもらえばわかると思うが、会社に通うにも苦にはならないはずだ」


ああ、本当だ。

駅近だし、電車も乗り換えなしの乗車時間は十五分。

通勤時間はドアtoドアで四十分なら、全然文句はない……じゃなくて!

< 22 / 127 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop