御曹司とおためし新婚生活


お試しでも結婚は結婚だ。

互いにあまり結婚というものを重要視していないとはいえ、やはり簡単に入籍なんてしてはいけない気がする。

試しに付き合ってみようかというのとはレベルが違うのだ。

まして、私たちは互いを良く知らない。

もちろん、同じオフィス、同じフロアで働く上司と部下ではあるけど、プライベートな話をしたのは昨夜が初めて。


「その、結婚は、もう少しお互いを知ってからでないと、さすがに……」


いくら何でもギャンブルが過ぎる。

心の中でそう続けると、東雲部長は小さな溜め息を落とした。

そして、真摯な瞳を私に向ける。

こ、これは、もしかして。


『俺は、ずっとお前を見ていた。だから、お前のことは良く知っている。あとは向日。いや、亜湖。お前が俺を好きになるだけだ。いや、いずれ必ず好きにならせてみせる。だから、結婚しよう』


的なプロポーズの流れじゃ──。


「何をバカなことを言ってる。結婚”生活”を試すんだ。結婚しなくとも、結婚しているていで生活をすれば問題ない」


なかった。

なかったけど、紛らわしい!

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