御曹司とおためし新婚生活
昨夜の提案が幻聴ではなかったなら、部長は確かに『俺と結婚しろ、向日』と言ったはずだ。
結婚する気がないなら、ちゃんと『結婚しないけど生活を試してみよう』と言って欲しい。
真顔で結婚しようとか、東雲部長が言ったら本気にしか思えないのだから。
私の悩んでいた時間を返せ、と言いたいところだけど、よく考えたら試しで東雲部長と結婚生活をするというだけでもびっくり案件だ。
結婚というパワーワードにすっかり勘違いするところだった。
「あの、もう一度確認しますけど、本気で試すんですか?」
「さっきも言っただろ」
「こんな豪華なお家でですか? 私、絶対家賃払えませんよ」
都内高級住宅地に建つ日本庭園付きの一軒家なんて、私の月給では絶対足りない。
例え折半だとしても足りる気がしない。
それに、東雲部長との生活もイメージが湧かないし、豪邸での生活は素敵だけど昨日今日で決めるのは無謀というかなんというか。