御曹司とおためし新婚生活
「家賃や生活費に関しては心配ない。向日は一切出さなくていい」
「……え、え? ええ? いやいや、さすがにそれは」
「結婚てのはそういうもんだろう。もちろんパートナーと折半という夫婦もいるだろうが、俺はそうするつもりはない。自分の愛するものは、自分の力で守る」
試しの結婚生活だとしてもだ、と続けた東雲部長は、注文をとりにきたスタッフにハイネケンとペールエールを頼んだ。
か、かっこいいんですけど!
私の好みを昨晩の飲みで把握して何も言わなくてもオーダーしてくれちゃったところはもちろんのこと、愛するものは自分の力でって恥ずかしげもなく言えてしまうなんて。
いや、結婚願望あんまりない人が愛を語っているのもなんか変な感じがするけど、結婚するならそれが当然だと思っている部長、本当にかっこいいです。
家賃も生活費も払わなくなった元彼を思い出すと泣けてくるほどに。
けれども、全て払ってもらうなんてそんな図々しいことはしたくない。
試しということは、今のマンションにいずれ戻るということだ。
だとすれば、家賃と光熱費の基本料金はお試し期間も支払わないとならない。
そこの負担を考えつつ、お試しの生活費も出すとなると……と、そこでハタと気付く。
この考えに至るということは、お試し結婚生活を受け入れ始めているということなのではと。
そう、思い出せばさっきも無謀ではあるけど、昨日今日で決めるにはと考えていた。
つまりそれってある程度の問題がクリアされるなら無謀という文字は空のかなたに飛んでいくということだ。