御曹司とおためし新婚生活


「まずは食べてみましょうよ。それで美味しくなかったら私は皿洗いに徹します」

「……食えと言うのか、こいつを」


眉根を寄せた東雲部長は、信じられないものでも見るように卵焼きに視線を落とす。


「せっかくなので夫婦らしくあーんしてあげましょうか」

「お前、サドだな」

「その言葉、そっくりそのまま部長にお返ししますね。はい、あーん」


部長相手にあーんして食べさせるとか自分で自分の発言にちょっと驚いたけど、見た目に反して悪くないな、という反応を期待してカットした卵焼きを箸で掴み、部長の口元まで運ぶ。

すると、渋々……いや、恐る恐るといった様子で口を開いた部長。

しかし照れているのか、彼の耳がほんのりと赤く染まっていて。

つられるように私も頬が熱を持つのを感じる。

自分から食べさせようとしておいてなんだけど、これ結構恥ずかしいやつだった。

しかも相手は東雲部長。

そう、東雲部長ですよ。

東雲部長が照れているとかそんな状況を誰が予想していただろうか。

むしろ見たことある人はいるのだろうか。

ちょっとした優越感に浸っているうちに、部長が黒い卵焼きをはむっと口内に含ませる。

そして、咀嚼をスタートした直後。


「……っ!」


部長はカッと目を見開き、顔を真っ青にして無言で立ち上がる。


「部長?」


早歩きでリビングから出て行ってしまった。

キッチンの隅でゲホゲホとむせる声がする。


「そんなおおげさな~」


確かに見た目は悪いけれど、食べれないことはないでしょう。

玉子焼きで失敗なんてそうそうないよと私も一口頬張って。


「……んんんんんんんんんんんん!?」


東雲部長に続き、キッチンの隅へと駆け込んだのだった。



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