御曹司とおためし新婚生活
「私、部長の笑ったところ見たことありません」
思い切って声にすると、東雲部長は機嫌を悪くするでもなく、「そうか?」とコーヒーカップを手にした。
「楽しいと感じていることはそれなりにあるんだが」
あるんだ!?
いや、そりゃ人間なら楽しいと思う気持ちは生まれるのは自然だ。
でも、今日まで職場でのイメージが強かったから、こうして一緒に住むことになってもまだプライベートにおける楽しそうな東雲部長というのがどんな感じなのか想像がつかない。
東雲部長が楽しいと感じることにめちゃめちゃ興味が湧くんですけど。
ううん、それよりなにより。
「部長、今笑ってみてもらえます?」
部長の笑顔が見てみたい。
だからダメ元でお願いしてみたけれど。
「断る」
即刻却下されてしまった。
けれど夕食前、縁側でも笑った顔を見そびれていたかもしれないと思うと、見たい欲求がさらに育っていく。