御曹司とおためし新婚生活
「そんなこと言わず、ちょっとだけ、一瞬でもいいんで!」
「俺の笑顔なんて見ても何の得もないだろう」
「ありますよ! 今まで見たことのない新しい部長の一面を知れるんですよ。私、知りたいです、部長のこと」
レアな笑顔を拝むべく、勢いに任せて東雲部長にアピールすると、一瞬動きを止めた部長の切れ長の瞳が私を捉えて。
「……そんなに見たいのか?」
「はい。とっても」
頷いてみせれば、部長は静かにコーヒーカップをテーブルに戻し、体を僅かにこちらに向けた。
「俺を知りたいと言うんだな」
「知りたいです!」
コクコクと二度首を縦に振って応えた私に、部長の目が一瞬だけ妖しい色を纏って、その大きな手が私の肩に触れた刹那。
一瞬で視界が大きくブレ、気付けば背中にソファーの感触と。
「……え?」
視線の先には、天井をバッグに影を纏った東雲部長。
「……あ、れ?」
私、もしかして組み敷かれているのでは。
なんて、呑気に考えていれば、その整った顔が近づいてきた。