御曹司とおためし新婚生活
細められた目は色っぽく、否応なしに胸が早鐘を打つ。
急な展開に、いったいなぜこうなったのかと混乱していると。
ぐんと、嫌味のない落ち着いた香りが近くなり、彼の唇が私の耳元に寄せられて。
「知りたいなら、教えてやる」
囁かれた甘く低い声に鳥肌が立った。
薄い唇が強張って動けない私の頬を優しく辿り、口角に触れ、漏れる吐息を感じ。
──キス、される。
と、瞼をきつく閉ざした直後。
体に圧し掛かっていた重みがふと消えて。
「悪くないな」
「……へ?」
「そのアホ面も嫌いじゃない」
東雲部長はソファーから立ち上がるとノートパソコンを手にした。
私を見下ろす瞳はどこか楽しそう。
「かっ……からかったんですか!?」
勢いよく起き上がり、眉を寄せて抗議すると部長はノートパソコンを持つ手とは反対の手にコーヒーカップを持った。
そして。
「どうだろうな? でも、一瞬でも知れただろう? お前の知らない俺を」
しれっと言い放つとまたコーヒーに口をつける。