御曹司とおためし新婚生活


「亜湖ちゃん」

それは、打ち合わせの為に広報部フロアを出た時のこと。

奥田マネージャーと並んで歩いていると、企画部のフロアから出てきた鳳さんに声をかけられた。

爽やかな紺色のジャケットを羽織った鳳さん。

彼は少し離れた場所からひらひらとこちらに向かって手を振ってきて、私は軽く会釈した。

その様子に、奥田マネージャーは軽く肘で私の腕をつつく。


「ゆずから聞いたけど、一緒に飲んだんですって?」

「ゆずちゃんがノリノリになってしまって」

「前にも言ったけど、気を付けなさい。彼、マーケティング部の子に手を出して泣かせたばかりよ」


その話なら私も先週末にゆずちゃんから聞いていた。


『私が必死にアプローチしてるってのに、鳳さんってば、マーケティングの新人をお持ち帰りよ』


給湯室で『クズよクズ。でもかっこいいのよねぇ』と体をくねらせて語っていた彼女は、鳳さんをまだ狙うつもりらしい。

本当にたくましくて、そういうところは見習いたいなと思う。

そして、ニコニコとこちらに歩み寄って来る鳳さんの軽さは微塵も見習いたくないなとも。

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