御曹司とおためし新婚生活


フルーティーでまろやかな味を堪能していると、ひとりでグラスを傾けている東雲部長の隣に男性が腰掛けた。


「やっぱりここにいたな、東雲」


東雲部長に対しての気さくな話し方。

声の掛け方からして待ち合わせしていた感じではなさそうだけど……と、観察している最中、ちらりと見えた横顔には覚えがあった。

無造作にセットされたパーマヘアとあか抜けた印象の男性。

広報部ではない。

他部署の人だったかと、記憶を辿りつつ笑みが浮かべられた顔を見つめる。

愛想のいいその人に対して、東雲部長は、彼が現れた時に視線を向けただけで、返事すらしていないようだ。

……仲が、よろしくないのだろうか。

というか、東雲部長は激しく愛想がない人だ。

笑った顔なんて見たことはなく、大抵は無表情か眉間に皺を寄せているか。

たまに『良くやった』と褒められることがあっても全く褒められている気分にならないほど。

四月の歓迎会で、ゆずちゃんが『部長の笑顔が見たいわ』と言って、果敢に色々なネタをぶっこんでいたけれど、東雲部長の頬はピクリとも動かずゆずちゃんの惨敗に終わった。

少し懐かしい思い出を脳内で再生させていると、恋に惨敗中のゆずちゃんがお手洗いから戻って来る。

海賊メイクは綺麗になくなったようだ。

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