御曹司とおためし新婚生活


部長は……私も、信用していないということなのかもしれない。

でも。


『俺は、そんなお前に興味がある。だから、お前ならと思った』


そう、言ってくれていたから。

からかっていたとしても、触れて。

私のキスに、動揺して。

今だって、こうやって打ち明けてくれているから。

だから、無意識に勘違いしてしまっていた。

私は他の人より、東雲部長にとって心を許してもらえている存在なのだと。

だけどよく考えたら、こうして暮らし始めてまだ二日目。

信用は簡単に得られるものではない。

それが当たり前なのに、そう考えたらツキンと、胸の奥が痛んだ気がして。

けれども、当時感じた部長の痛みを思えば見えない壁を作るのは仕方ないこと。

小さな傷口から滲んだ寂しさを、私は笑顔を浮かべることで消して、ふと思い出す。

鳳さんは谷川さんを昔の仲間だと言っていた。


「まさか、谷川さんも?」


東雲部長が女性を遠ざける原因の一人なのではと心配になってしまう。

けれども、私の疑問に東雲部長は「彼女は違う」とはっきり頭を振った。


「彼女は、人の魅力を引き出す仕事の素晴らしさを俺に教えてくれた女性だ」


また腕時計に視線を落とし、けれど声色は先ほどよりも穏やかで。

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