御曹司とおためし新婚生活
私の案が採用された。
たまらなく嬉しくて、体中の血液が躍って熱くなるような感覚。
テーマ変更についてPRのみんなが話し始める中、ふと東雲部長が立ち上がった。
「あとは任せる。向日、その会議招集は俺にも出しておいてくれ。なるべく都合をつけて出席する」
「は、はい。わかりました。あのっ」
ドアノブに手をかけ、会議室を出る部長を追う。
静かに扉が閉まったところで、私はお辞儀をした。
「ありがとうございました」
私のアイデアに耳を傾けてくれたこと。
背中を押してくれたこと。
チャンスを与えてくれたこと。
深い感謝の思いを込めて礼を口にした私の頭を、部長はくしゃりと撫でた。
ただ、それだけ。
労いの言葉はない。
けれど、それだけで十分だった。
こんな風に人に触れて褒める彼を見たことがない私にとって、最高の賞賛。
部長の長い指が離れていくタイミングで顔を上げると、優しい眼差しとぶつかった。
仕事モードの彼には珍しく、それ故に不意を突かれて私の心臓が甘く跳ねる。