御曹司とおためし新婚生活
鳳さんに熱い視線を向けながら、ゆずちゃんが鮮やかなピンクの乗った唇を動かす。
「亜湖。あたし、目の前のチャンスには全力で飛びつくタイプなの」
「……知ってる」
そして、ゆずちゃんがなぜそれを口にしたのかも。
「じゃ、アタック開始ね」
フフフと肩を可愛らしく寄せて立ち上がったゆずちゃんは、軽い足取りで東雲部長と鳳さんの間に割って入るように声をかけた。
そして、予想通り──。
「それじゃ、あらためまして! かんぱぁい!」
語尾にハートマークがつくような弾んだ声で乾杯の音頭をとったゆずちゃん。
彼女の横、つまり私の正面に腰を下ろすのは東雲部長。
私の右隣には、鳳さん。
なぜこの配置なのかとテーブルの下でスマホをいじりゆずちゃんにメッセージを送信したら【正面から鳳さんの顔を見つめたいから。そしてなるべくあたしを彼の視界に入れてほしいから】という返信がきた。
さっきまで号泣していたはずの失恋の痛みはどこへ行ったのか。
私なんて失恋したらしばらく立ち直れないし、男の人を見るだけで疲れるのに。
彼女のたくましさに尊敬の念を抱きながら、おかわりをしたエールに口をつけた。