御曹司とおためし新婚生活


彼の視線は鳳さんへと向けられていて、その鳳さんはというと。


「……へえ?」


紙コップを側にあったテーブルに置くと、腕を組んで不敵な笑みを浮かべた。

静かに睨み合う二人の間に、見えるはずのない火花が散ってるように見えて、オロオロする私の横で谷川さんが楽しそうに肩を揺らす。


「向日さん、あなたなかなかやるわね」

「え?」

「そうかー。あのツンツンクールな東雲君がようやくかー」

「え? え?」


懐かし気に遠くを見つめる谷川さん。

すぐそばにあるふたつのちぐはぐな空気に戸惑っていると、タイミングよく奥田さんから手伝いの声がかかり、私は苦笑しながら失礼しますとその場を離れた。

足を踏み出すたびに、心の中で想いが揺れる。

蓋をし損ねたそれをどうすべきか。

いっそ流せはしないかと、誰にも気付かれないように息を吐き出してみたけれど、流れ出るどころか切なさが募っただけ。


「ダメダメ。今は仕事に集中」


ひとりごちると私は軽く両手で頬を叩き、笑顔を作って奥田さんの横に並んだ。






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