御曹司とおためし新婚生活
スチール撮影はほぼスケジュール通りに進み、大きな問題もなく終わった。
夕方、スタジオから帰社し自席につくと、校正・雑誌のチェックに取り掛かる。
それらも滞りなく仕上げ、午後八時を回ったところで私は荷物をまとめ、まだ残っているフロアの皆に声をかけてから会社を出た。
ちなみに、東雲部長は接待に出ている。
相手はもちろん谷川さんだ。
谷川さんは明後日のフライトでまたパリへと戻る予定で、その見送りも東雲部長はするらしい。
お気に入りの白いパンプスを鳴らしながら、うっすらと星の輝く夜空を見上げるとため息が零れてしまった。
……今頃、部長は谷川さんと楽しくお酒を飲んでいるのだろうか。
チリリと、小さな痛みに胸の奥が疼く。
東雲部長と谷川さんの間に恋愛感情は微塵もなく、東雲部長の心の中にあるのは恩だと理解している。
谷川さんだって、フランス人男性の旦那さんがいるのだ。
けれど、東雲部長にとって谷川さんは夢をくれた特別な人。
その”特別”を意識してしまうと、靄のかかった重い感情が私の心を目隠しする。
特別は、私だけがいいなんて。
恋人でもないのに自分勝手もいいとろだ。
というか、こんな考えに至ってる時点で私の気持ちはもう誤魔化しがきかないレベルに到達しているという証拠。
いつから?
どこから?
電車に揺られ、心も揺れて。
東雲部長への想いに揺られっぱなしの私。